*その2 疑似犬
会社でクセナキスの現代音楽を突然上演することになった。出演することに
なったぼくは、クセナキスの分厚い本の栞をはさんだページを開いて、彼の奇
妙な楽譜を必死で読み込む。さあ、本番。出番が来て、ステージに向けて演技
をしながら歩き出したとたん、社員らしい若い男が玄関からぼくを呼び止めた
。しかたなく、ぼくは床を這うようにして、演技をするふりをしながら、玄関
から外に出る。
その男はぼくに「スポンサーの一家で巨大な風船を揚げていたら、それが爆
発して家が全焼した」と言う。それなら、このクセナキス上演の企画も中止せ
ざるをえない。しかし、ぼくは会場にとってかえし、パフォーマンスを続ける
。パフォーマンスではぼくの操る小さな犬とも小人とも見える動物が活躍し、
女性たちに「かわいい!」と大人気だ。
パフォーマンスが終わり、ぼくは外の道路に出て、その動物を遊ばせる。動
物は屋台に駆け上がる。屋台には貧しい小学生くらいの年齢の少女が働いてお
り、彼女は動物を見て大喜びだ。動物はどんどん道路を駆けて、向かい側の店
を覗いたりしている。ぼくは動物がどこかへ行ってしまうのではないかと、心
配でたまらない。ぼくは動物に「名古屋に今度遊びにおいでよ」と呼びかける
。そして「さあ、もう帰ろう」と言って、動物を手に乗せる。