1996/11/15  安斎利洋 いやな釣人



(夢)パイナップルの山だ。異国の女達が群らがっている。そこには、何種類かのパイナップルがある。「端的にどれを選べばいいのか教えて欲しいんだ」というぼくの問いに快く答えてくれた女に、あやうく惚れてしまいそうになった。  そこいら中の人が、祭に沸いている。目の前をビュンと音をたてて、釣り糸が飛び交い、ファンファーレが鳴る。裸の少年達が並んで、ペニスをラッパの角度に勃起させている。いちばん右側の一人だけは、いっこうに立たない。彼はあきらめたのか、ひゅるひゅると音をたててペニスを体の中に格納してしまった。  釣針は、かなり遠方にいるの口から、犬のくわえていた食い物を奪い取る。食い物はぼくの目の前をよぎって、釣人の手元まで引き寄せられる。釣人は得意げだが、それに飽き足らないのか、犬のかわりに小学校の教室にいる一人の女の子の口から何かを釣り上げたいという。いやな奴だ。ぼくは彼に、ウイリアムテルかロビンフッドを例にあげて抗議する。その両者の区別が、ときどき危うくなる。息子の頭に載せたリンゴを射抜くにしても、そこにはかなりの信頼関係がないといけないわけで、見ず知らずのおじさんに、女の子がそんなことを許すわけないじゃないか!  いつのまにか、釣人は白いあご髭をたくわえている。彼は片手の親指とひとさし指を使って、髭の輪郭に波形を描いてみせる。すると、髭のエッジが青く染まる。手のしぐさだけでそうやって幻覚を引き起こそうっていうのなら、ぼくだってこうしてやろう。ぼくは、髪をおもいきり前から後ろに振り上げると、歌舞伎役者のような幻覚を引き起こすことができたようだ。こいつにだけは、負けるわけにはいかないのだ。ともかく、いやな奴なのだ。


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