絵を描く筆の動きを一本の遺伝情報とし、複数の絵の交配によって無数の絵を生成する試みです。安斎、中村それぞれが描いた十数枚の顔の絵を種として、遺伝的ペイントシステム「タブラ・ピクシマ」のプールの中で、一晩に1000枚ほどの多様な顔の絵が生まれます。NTT/ICCの展覧会場では、展示時間外も含めて終日交配プログラムが動き続け、1万以上の顔が生成されました。下の画像群は、顔ポイエーシスが最初に生み出した交配結果の一部です。
NTT/ICCでの展示
期間中に交配された顔の一部は印刷され、展示が成長していく。(curator: 大和田龍夫)
Tabula Pixema
『タブラ・ピクシマ』は、絵をピクシムという要素で描いていく新しい概念のペイントシステムです。ピクシムは、言語における音素 phoneme、形態素 morpheme に倣った、絵における絵素 pixeme で、ピクシマ pixema はその複数形です。
ピクシムは、形や色が固定された定数ではなく、交換可能なピクシム群=ピクシマを代入できる変数です。画家が確定的に絵を描いていくペイントシステムと違い、一筆ごとの描画は、いずれほかのピクシマと交換されることを前提に描かれます。その結果、ピクシムの集まりとして描かれた一枚の絵は、画家が描いたかもしれない無数の絵の束すべてを含むことになり、また同時に他の画家の描いた絵の束と絡み合うことにもなります。 また、『タブラ・ピクシマ』によって生成された絵の出力をピクシマ・プールに戻すことによって、無限増殖回路が始動します。
『タブラ・ピクシマ』は、ユーザーインタフェース、グラフ構造編集などを『カンブリアン・ガーデン』をベースにして作られています。
『顔ポイエーシス』は、タブラ・ピクシマによって描かれた安斎利洋と中村理恵子の絵を増殖回路の中に共存させることによって、「私」の絵の無数の可能性と「他者」の絵の無数の可能性を遺伝的に交配する実験です。個の境界線を問い続けてきた連画の、新しい地平でもあります。