Tabula Pixema タブラ・ピクシマ

顔ポイエーシスと遺伝的絵画について Face Poiesis and Genetic Paintings

安斎利洋 Toshihiro ANZAI

-poiesis
「産出」「生成」「新生」の意。例: hematopoiesis 血液生成。ギリシャ語。

顔ポイエーシスは、新しいアートテクニックとして「遺伝的絵画(Genetic Paintings)」を提唱しています。

絵をたんなる絵としてとらえると、それは一枚の静止した濃度分布地図にすぎません。が、絵は一方で一本の線状の描かれる過程でもあります。絵を遺伝的な要素として扱う『タブラ・ピクシマ』は、絵をピクシムと呼ばれる要素で描いていく新しい概念のペイントシステムです。ピクシムは、言語における音素 phoneme、形態素 morpheme に倣った、絵における絵素 pixeme で、ピクシマ pixema はその複数形です。

anzseed6

たとえばここにある一枚の絵は、次のようなピクシムの連鎖に分解できます。

dna (1)

[foundation]

dna (2)

[hair]

dna (3)

[lips]

dna (4)

[eyebrows]

dna (5)

[eyes]

dna (6)

[makeup]

上のひとつひとつの要素が、言葉でいえば文字にあたり、[eyes]のような塊は文節です。『タブラ・ピクシマ』では、文字=ピクシムの集まりである文節をチャンクと呼んでいます。

ピクシムは、形や色が固定された定数ではなく、交換可能なピクシム群=ピクシマを代入できる変数です。画家が確定的に絵を描いていくペイントシステムと違い、一筆ごとの描画は、いずれほかのピクシマと交換されることを前提に描かれます。具体的に言うと、顔ポイエーシスの場合、次のようなチャンク群で描かれたAという絵があるとします。
A([foundation],[eyes],[eyebrows],[lips],[hair],[makeup])
また、Bの絵があります。
B([foundation],[eyes],[eyebrows],[hair],[lips],[makeup])
これらをランダムに交配し、Cのような結果を得ることができます。
C([B.foundation],[A.eyes],[A.eyebrows],[B.hair],[A.lips],[B.makeup])

10の種があれば、可能な親の組み合わせは45になります。20の種なら190です。また同じ親の組み合わせでも、次のようにいく通りもの「きょうだい」が生まれます。これらの第一世代から、さらに第二世代、第三世代の交配ができますので、わずかな種からでも膨大な多様性を生み出すことができます。

siblings

ピクシムの集まりとして描かれた一枚の絵は、無数の交配を重ねることによって画家が描いたかもしれない無数の絵の束すべてを含むことになり、また同時に他の画家の描いた絵の束と絡み合うことにもなります。また、『タブラ・ピクシマ』によって生成された絵の出力をピクシマ・プールに戻すことによって、無限増殖回路が始動します。『タブラ・ピクシマ』は、アナログ素材のように自然な振る舞いをする画材として作られていますが、何気ない一筆を置くときも、重ね合わせられた無数の可能性を計算に入れて描くという、新しい種類の造形思考回路を開く必要があります。

『タブラ・ピクシマ』によって、画家はまず一枚の絵を無数の絵の種として描き、それが増殖回路の中で組み合わせ的爆発を起こすのを目撃します。さらに、他の画家と示し合わせて、複数の作家の作家らしさの交配を目撃し、そこに含まれる快と不快に翻弄されることになるでしょう。『顔ポイエーシス』は、『タブラ・ピクシマ』によって描かれた安斎利洋と中村理恵子の絵を増殖回路の中に共存させることによって、私の絵の無数の可能性と他者の絵の無数の可能性を遺伝的に交配する実験です。これは、個の境界線を問い続けてきた『連画』の、新しい地平でもあります。

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安斎利洋ピュア・プール

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中村理恵子ピュア・プール

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安斎+中村ハイブリッド・プール

 

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『タブラ・ピクシマ』のユーザーインタフェース、グラフ構造編集などは『カンブリアン・ガーデン』をベースに作られている

 

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交配中の画面

shalepart

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