土の露出した断崖に、人ひとりやっと通れる穴があり、くり貫かれた土の中に酒場があり、好きな酒を好きなだけ呑み好きなだけ金を置いていく仕組み。鈴木健が、自分は蚊に刺されても放置するという。好きなだけ血を吸わせて、そのうち自分の血が蚊と交換されて別ものになってもそれはそれでいいというので、いやだめな蚊もいるだろと反論する。
血液交換場
(2017年10月15日)
土の露出した断崖に、人ひとりやっと通れる穴があり、くり貫かれた土の中に酒場があり、好きな酒を好きなだけ呑み好きなだけ金を置いていく仕組み。鈴木健が、自分は蚊に刺されても放置するという。好きなだけ血を吸わせて、そのうち自分の血が蚊と交換されて別ものになってもそれはそれでいいというので、いやだめな蚊もいるだろと反論する。
父親と言い争っている。父親に非があることは、家族の誰から見ても明らかなのだ。僕は怒りよりも、意地悪い優越感をもっている。もうたくさんだ、とかなんとか言い放って、僕は台所に閉じ篭ってしまう。父親の情けなげな顔を思いうかべると、悲しい気持になるが、もう引っ込みがつかない。このままこの態度を押し通すしかない。台所には、ユスリカよりも大きい蚊がいて、なにかの拍子に粘着性のある面に捕らえられてしまったようだ。
階段の上で、父親の妹にあたる叔母が遠い所へ旅立とうとしている。僕はあなたのことを決して忘れない、というような感動的な台詞を言うべきかどうか迷っているうちに、事態はすっかり月並みに盛り上がってしまって、叔母は涙を流している。しまったと思う。こういうのは嫌いなのだ。
叔母の作ったポテトサラダを食べようとすると、そこには小さいナメクジのような生き物がうごめいている。別に食べても毒じゃないが、その虫がいるのは芋のところだけだから、それを取り除けば大丈夫、と叔母がしきりに勧める。虫なんか気にならないそぶりを見せるのが、叔母へのはなむけに違いないと思う。
台所の蚊は、腹の部分を高くもちあげて、産卵をはじめた。本当は、なにか対象物に産み付けるところだが、捕らえられているので仕方なく、自分の腹に卵を産み付けている。しだいに卵が堆積してうずたかくなっていく。一番はじめに産み付けられた下の方の卵は、早くも孵化が始まるのか、かすかに動きはじめている。