青山一帯が更地になっている。こどものくにの恐竜が何匹か、更地の縁に張り付いている。8階の店の窓から見ると恐竜は虫ほどの大きさで、青虫が葉を喰い拡げていくように見える。上空から見る津波は偽物だから、早く地面に降りて写真を撮ったほうがいい、と女店主に促される。
(2016年10月26日)
青山一帯が更地になっている。こどものくにの恐竜が何匹か、更地の縁に張り付いている。8階の店の窓から見ると恐竜は虫ほどの大きさで、青虫が葉を喰い拡げていくように見える。上空から見る津波は偽物だから、早く地面に降りて写真を撮ったほうがいい、と女店主に促される。
増尾さんの車でコンビニの駐車場に入ると、ざく切りのトマトをたっぷり溜めた車を停めている白服の女がいる。怪しい女の車からなるべく離れて駐車したのだが、女がトマトを宙に噴出しはじめたので、僕は移動式郵便局のドアに入り難を逃れる。ガラス張りの天井や壁にトマトの種や液体がたまり、外の景色が赤く歪んでいく。これは撮影のためにやっているから害はない、しかし迷惑な話だ、と郵便局員は言う。郵便局に入ってきた女を非難の意味をこめて蹴り出すが、女はただの客だったかもしれない。廃屋になった教会の敷地に、太いホースのついた掃除機が捨ててあり、トマトを噴霧した道具の一部だとすぐにわかった。誰もそのことに気づいていない。持ち帰ろうか、しかし実家の部屋を埋め尽くすがらくたに、この機械を加えることに意味があるのか。
実家の前の広い敷地が更地になっていて、かつて見たことがなかった奥に、ペンキ塗りの板塀のアパート群があらわになっている。だれも住んでいないから、あの建物も撤去してくれないと火事になったら怖いと母親が言うが、じっくり廃屋を撮影するまでこのままにしてほしい。