乗合バスを使って引っ越しをしている。右半分が荷物で、左半分を乗客がしめている。八階のベランダに出てみると、東京全景見渡す限り水に沈み、眼下の森は海藻のようにゆらめいている。この水のどこかに、バスと荷物が移動している。ベランダづたいにやってきた佐和子さんに、水苔ですべると危ないからと手をさしのべる。佐和子さんは笑いながら、ここはもう渚だから落ちることはないと言う。
(2015年3月6日)
乗合バスを使って引っ越しをしている。右半分が荷物で、左半分を乗客がしめている。八階のベランダに出てみると、東京全景見渡す限り水に沈み、眼下の森は海藻のようにゆらめいている。この水のどこかに、バスと荷物が移動している。ベランダづたいにやってきた佐和子さんに、水苔ですべると危ないからと手をさしのべる。佐和子さんは笑いながら、ここはもう渚だから落ちることはないと言う。
アリ塚のような団地は、外は晴れていても中は雨が降り続いている。無計画に増築してしまったので、塞ぎようのない亀裂から入りこんだ水が建物のあちこちに溜まっている。液状化した泥のベッドに浸かっている女が、こうしていると自然分娩できると言って、泥水の中でスカートのようにひらいた膣を水母のようにふわふわさせると、ふわふわごとに赤ん坊の卵が下におりてくる。