爆走レース

財布をいつも身に着けていないからなくすのだ、と木村拓哉がなじるので、それならお前が財布になれと言うと、彼は憤慨して運転席から去ってしまう。彼には僕の落胆は理解できない。やむなく僕は隣を走る車の運転を真似てボタン操作をすると、車は渋滞する車列の屋根の上を走りだし、大暴走の果てに火花をあげて大破する。

車を処分するときには右翼を使えという教訓があるので、イタリアマフィアのいるガラス張りのブティックの前に車は捨て置くことにする。彼の手下がダイナマイトを車の下に仕込むのを見とどけ、僕は安堵して土手を登り、自転車レースに紛れ込むことにした。門にいるエントリー担当の女が、靴ひもの穴の数が違反しているのでこのままではレースに出られないと言う。どうにかできると思いますが、と言いかけたところで、靴の鳩目がぼろぼろと彼女の病気の皮膚にこぼれ、ブルドッグのように小さくなった彼女は、赤黒く襞の寄った裸の身体を掻きはじめた。

(2012年8月20日その3)