ゼログラム 〇g

シェア・アート 連画CD-ROM Ver.1


制作・著作 中村理恵子・安斎利洋
1995.4.29 発売
¥5,800
CD-ROMジャケットデザイン:竹村朋子(トムケム)
後援:NEC PC-VAN

1995年 電子ネットワーク協議会・電子ネットワーク賞受賞(《ゼログラム》のコンセプトに対して)


《ゼログラム》

〇g

●《ゼログラム》はシェアアートである

《ゼログラム》は、ディジタルデータによるアート作品を、ディ
ジタルメディア上で展示、配布するための、ひとつの考え方です。
《ゼログラム》は、シェアウェアとしてのアート、シェアアート
という考え方に根ざしています。シェアウェアは、価値を主張した
いデータを幾重にもガードするのではなく、反対にネットワークに
対して開いていくことによって利益を上げようとする考え方です。
シェアアートとしての《ゼログラム》の出発点も同様です。すなわ
ち《ゼログラム》は「ネットワークに対して作品を開いていく方法」
のことです。

●《ゼログラム》の骨子

《ゼログラム》は、次の三つの骨子をもっています。

・作品が重さのない(0グラムの)情報である限り、作品は自由に
コピーされ、ネットワークの中を泳ぎまわることができること。

・作品が重さをもったメディアに結びつくことを作品の使用と規定
し、それについてのみ対価を要求すること。

・作品データが故意に欠損させられていないことを保証し、作品と
リンクする情報を作品と切り離さずに保持すること。

●《ゼログラム》作品の使用権

《ゼログラム》という言葉は、われわれが対象にしているデータ
による作品が、キャンバスやフィルムといった重さのあるメディア
に拘束されていない情報である、ということに由来しています。重
さのないデータ作品は、重さのあるメディア上の作品では考えられ
ないさまざまな自由を享受します。《ゼログラム》は、その自由を
最も尊重します。
アーティストが売りたいのは、絵ではなく感動です。そういう言
い方は、いかにも前時代的な響きを持たざるをえませんが、われわ
れはもっとうまくそれを表現することができます。すなわち、われ
われは物体(ハードコピー)ではなく、情報(データ)を売りたい
のです。われわれがいま住みついている経済システムは、重さのあ
るものを売り買いしながら練り上げられてきました。ですから、物
体から完全に離れた情報を売ろうとすると、さまざまな困難をかか
えこむことになります。
そこで《ゼログラム》は、以下のような暫定的な方法を提案しま
す。
《ゼログラム》作品の作者は、作品がデータの形でネットワーク
のなかを移動複製されることについて、当面、対価を要求しません。
当面というのは、現在の仕組みのなかで対価を要求することが、デー
タの自律的なネットワーク活力を奪うことになると考えるからです。
しかし、作品が重さのあるメディアと結合するとき、われわれは
それを作品の使用とみなし、使用の範囲を規定し、使用権に対する
対価を要求します。もしあなたが、作品をプリントアウトして壁に
貼りたい場合、指定された方法で作者に使用料を送金してください。
CD-ROMにプリントしたい場合や、出版物に掲載したい場合も
同様です。使用権の範囲、料金、送金方法、作者への連絡方法は、
作品ごとに添付されるテキストファイルに明記されるはずです。
「重さのない」という規定は、非常に漠然とした言い方です。シ
リコンチップにも磁性体にも重さはあります。しかしこれらは、重
さのある素子と情報の結びつきが恒常的ではありません。《ゼログ
ラム》の作品は、「重さのあるメディアと恒常的に結合すること」
を、「作品の使用」と呼びます。
作品は体験であって、モノではありません。ですから、作者にと
っていちばん素直な表現は「この作品が好きだったらお金をくださ
い」ということです。この曖昧な言い方を、《ゼログラム》は次の
ように言い換えます。あなたがもし感動を買いたいと思ったら、ま
たアーティストの制作活動を援助したいと思ったら、作品の使用権
を、つまり作品をあなたの生活空間に恒常的に取り入れる権利を購
入してください。

●《ゼログラム》作品はフィニッシュである

《ゼログラム》のもうひとつのコンセプトは、作品のオリジナル
性に関するものです。ディジタルデータは無限にコピーが可能で、
コピーがコピーを産み、オリジナルがどこにあるかわからないとい
われます。
しかしアーティストは、作品をリサイズしたりトリミングしたり
非可逆性の情報圧縮を施すことによって、つまり作品を故意に傷つ
けることによって、自作品の希少性を守ろうとすることがあるでし
ょう。かつて、アナログの世界ではやむを得ずコピーに混入するノ
イズ(画像のゆがみ、色彩のずれ、明暗の飽和など)が、アナログ
作品のオリジナルの希少性を守る結果にになっていましたが、その
オリジナル=希少性の仕組みを模倣したやり方だと言えます。
《ゼログラム》は、そのような形でオリジナルの虚像を作るやり
方と袂を分かちます。《ゼログラム》は逆に、コピーもそのコピー
もみな作者のオリジンであり、作者がいちばん納得のいく形式であ
ることを保持しようとする仕組みでもあります。
《ゼログラム》は、そのデータが作品のフィニッシュであり、配
布されたデータよりも豊かな内容がどこかに秘匿されているわけで
はないことを明示することによって、作品のアイデンティティーを
守ります。《ゼログラム》の作品を転載する場合、必ず元データが
復元できるか、もしくはその在処が明示されアクセスできる形にな
っていることが要求されます。
もちろん作品の中にはJPEGがフィニッシュであるという場合もあ
るでしょう。その場合は、そのフィニッシュを尊重してください。

●《ゼログラム》作品のコピー

《ゼログラム》の作品は、ディジタルネットワーク上のさまざま
なエリアに自由に展示することができます。また、知人にコピーし
て渡すこともできます。こうしたコピーに際して、作品と付加情報
のすべての情報が保持されている必要があります。
たとえば、作品が静止画像の場合、作品が1024×1024画素24bitフ
ルカラーの画像を、同じ大きさと深さをもったTIFF形式やPICT形式
に変換することは、なんの問題もありません。しかし、それを512×
512画素にしたり、256色にしたり、JPEGで圧縮するといった、元デー
タが復元できない変換は《ゼログラム》の思想に反します。
《ゼログラム》の作品はまた、コピーにあたって付加されたテキ
スト情報を完全に伝達し、作者と作品のアイデンティティーが守ら
れなくてはなりません。関連するファイル群は、アーカイバーを用
いるなどの方法によって、同時にダウンロードされる一塊になって
いる必要があります。
ただし、たとえばJPEG画像をデータをダウンロードするためのプ
リビューにしたり、リサイズしたサムネイルをブラウザに用いるの
は、現在のネットワークのハードウェアの制約上、非常に有効なユー
ザーインターフェースです。しかしその場合に、次のような心遣い
を忘れないでください。非復元データ(つまりJPEG画像など)が指
し示す元データ(つまりTIFFなど)が、同じ環境下で容易にアクセ
スできること。そうした非復元データが、元データでないことを明
示すること。非復元データだけ独立して転載されることを禁止する
こと。
あくまでわれわれは、原形に復元できない傷ついたデータが、完
全な元データとの間の糸を切断されて、一人歩きすることを恐れま
す。

●《ゼログラム》を利用したいアーティストへ

《ゼログラム》のコンセプトに基づいて作品を発表していこうと
するアーティストは、無断でこのテキストを作品に添付できます。
《ゼログラム》はひとつのテンプレートであり、作品ごとの特記事
項や使用条件、許諾条件は、作品ごとにテキストが添付されるのが
望ましいでしょう。
アーティストは、このテキストファイルをデータ作品に添付する
ことによって、使用に関する煩雑な記述を省くことができます。個
別の使用条件について、つまり、してほしくない利用形態や、対価
を得たい条件、また支払いの方法について記述されたファイルは、
ご自分で用意してください。

作品は、幸福な壁面に掲げられることもあり、また不幸な壁面に
取り残されることもあります。観る者の心を開いていくチャンネル
をもつ作品もあり、不当に陳腐なベールに覆われしまう作品もあり
ます。
われわれはいま、どこにもない電子的な空間のなかで、重さのな
い作品を刻んでいます。そして作品が、CD-ROMやデータベー
ス上のどこにもない壁面に掲げられるチャンスも多くなってきまし
た。そこにもやはり、幸福な壁面と、不幸な壁面があるように思い
ます。
《ゼログラム》は、ディジタルメディア上の重さのない作品が、
魅力を不当に失うことなく、より多くの人々の眼に届けられるため
のインターフェース装置であろうとしています。創る者と観る者が
共通の理解のもとに、より確かに向かい合うことが《ゼログラム》
の最大の目的なのです。

●○g 1994-11-10 ——————————————-

《ゼログラム》コンセプトの運用について

本テキストファイル(ZEROGRAM.TXT 1994-11-10 版)で示した《ゼ
ログラム》のコンセプトは、安斎利洋と中村理恵子がネットワーク
上で制作を進めている「連画」を、PC-VAN上の電子画廊「ゼ
ログラム」に展示するのを契機にして練られました。しかし、《ゼ
ログラム》は特定の作品、特定の作者、特定のネットワークに属す
る考え方ではありません。《ゼログラム》の考え方が著しく損なわ
れない限り、コンセプトの運用については自由です。

安斎利洋 Toshihiro ANZAI
ZEN68545@pcvan.or.jp
unxi@mix.or.jp
HFF00646@niftyserve.or.jp
unxi ( sapience net )

中村理恵子 Rieko NAKAMURA
ZKN26192@pcvan.or.jp
JBG00142@niftyserve.or.jp
AEU111( MASTERNET )
CAB10008( CABINET )
Rieko ( sapience net )

〇g 1994-11-10

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