漂流キャンパス
VR映画ワークショップ
2020年の9月、大学を再開せよという号令が明に暗に飛び交うなか、「身体表現」と題した講座を担当していた私と中村理恵子は困り果てていました。
この講座、たとえば「人類絶滅後に一本の棒切れとどのように出会うか」などといった問いをかかげ、哲学的思考実験を身体的試行実験として繰り広げる試みを重ねてきました(参照:絶滅のあとに)。いわば身体の境界を探る実践を、マスクをつけディスタンスを保ちつつ恐る恐る再開したところで、うまくいく風景がまったく想像できません。
正常を恢復するのではなく、異常を逆手にとることこそ人間の知性なのではないかと思っている私たちは、いっそのこと困難を遊びきってみることにしました。身体表現を仮想身体表現と言い換え、仮想空間に幽閉された状況を、仮想空間に幽閉された環境で表現する入れ子のワークショップを思いつき、その成果として出来上がったのが『漂流キャンパス』です。
入れ子というのは、具体的にはこういう作業です。
「2020年春、ぼくたちは学校ごと仮想現実空間に閉じ込められた」
という設定を共有した4つのグループが、このお題のもとにコントシナリオを書く。それぞれVRのなかに撮影セットを作り、建築をリミックスし、俳優(アバター)を操り、PC画面のなかで撮影する。遠隔ワークで編集し、4編の寸劇を仕上げる。最後にそれらをまとめあげる。
数か月間、スキルを積み上げながら作業を進めるなかで、ワークショップ空間としてのVRの特性がいろいろ見えてきました。ほしいロケ地と建築を簡単にリミックスすることができ、ほしい小道具をオープンソースのオブジェクトから検索して出現させるのも簡単。一方で、取り出したハンバーガーを相手に手渡す動作一つとっても、現実空間では思いもよらない苦労を強いられます。
リアルよりはるかに簡単なことと、はるかに困難なことが同居していて、それはいま感じ続けている自由と不自由の拮抗そのものでした。VRは状況設定であり、技法であり、感染症時代のメタファーでもあります。なにげないコントに、アバターとアイデンティティ、会食の意味、触覚のない世界など、仮想世界の問題が投影しているのを読み取ることができます。
(安斎)
脚本・演出・俳優操作・撮影・編集:東京経済大学身体表現ワークショップ
ロケーション, 美術, 出演アバター:Mozilla Hubs
ワークショップ設計・制作統括:安斎利洋・中村理恵子