柳沼結美 (エキジビション・コーディネーター)
香港、パリ、ニューヨーク、ベルリンそして東京ー世界中に散らばる著名な7人
のアーティストが、短期間のうちにひとつの「連画」という創造物を編み上げる。
このセッションでは参加アーティスト各々が、個性的な自身の表現に成功している。
伝説の中に登場する牛を過去と未来、光と陰のイメージの中でよみがえらせたホリー
・リーを筆頭に、インナー・トリップへと主題を方向づける安斎利洋の鮮やかな表
現、言葉を転がし遊ぶパスカル・シュミットの道草、迷宮の中に放った虎が問いかけ
てくる謎々に、美しいグラフィックのパズルで答える中村理恵子のアプローチなどそ
れぞれの人柄、お国柄があらわれる秀作である。
浮かび上がってくるストーリを味わうだけでも楽しめるのだが、連画のうつくしさ
、おもしろさは実はネットワーク上で日々変容していくイメージのリレーの中にあ
る。例えば、今回はホリー・リーの放った子牛が、まるで牧場を駆け巡るようにセッ
ションのあちこちに現れては、散逸しがちなテーマにあるまとまりをもたらしてい
る。「予期せぬアクシデントもあった。バカンス中でアクセス先が毎日変わるアー
ティストとのやり取りや、データ送信の様式が異なるため、分割されて送信された画
像を日本にて再編成するなど。しかしこんな苦労話しが、逆にセッションにおけるテ
ンションの波を自ずと高めていくのはいわずもがな。。。。」
想像力のキャッチボールの中で繰り広げられるエネルギーのぶつかりあいは、時間、
空間、国籍や言葉の違いをハンディともせずにダイナミックかつ密やかにネットワー
ク・アートを成長させていく。「ヴァーチュアル」という言葉はお馴染みだが、連画
の生みの親であり、今回のまとめ役である中村理恵子、安斎利洋の両名は、21世紀
の電子情報網時代における「リアル」なコミュニケーションの未来型を、ここに提示
している。
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