rhizome: 鳥瞰

溶岩で描く絵

ラブホテルで部屋を探している。ショーケースに並んだ張り紙には、一か月十万円などと書かれてあり、ホテルと不動産屋の兼業はなかなかうまい商売だと感心する。連れが誰なのか、よくわからない。その後ろめたさの反動で、相手はしだいにくっきりと「あだちゆみ」と確信される。選んだ部屋に入り、わずかに開いた窓の外には溶岩が流れている。迫る溶岩は、のしかかるように見えるのが通常の遠近法だが、この窓からは鳥瞰したマグマの模様がしだいに領域を増やしていくように見える。このように見えるのは、真上からのビューを得るシステムが溶岩のマテリアルに組み込まれているためで、これを使えば絵を描くプログラムが作れるのだ、ということをあだちゆみに説明するのだが、パソコンでないのにプログラム?というあたりから理解してもらえず、埋まらない溝にいらだちながらあだちゆみが「さようなら」と言うので、僕はなぜこの部屋でずっといっしょに暮らせないのか、とひどくと感傷的になり、こみ上げてくる涙がばれないように、いっそ早くこの場を去るよう促すのだった。

(2006年9月17日)

苦しい下山

ほとんど崖っぷちを歩いているように見える桜日さんに、お願いだからもうちょっと真中を歩いてほしい、と無線連絡する。小高い丘の頂上か、高い建物の最上階か、僕は鳥瞰する位置からファインダー越しの桜日さんを見ている。心配になって、自分も彼女の位置までやってくると、そこは意外に安全なスロープのヌーディストビーチで、しかも照明もなく薄暗い屋内プールだ。僕は、この人と山を降りようとしている。
彼女は昨夜、空からたくさんの火球が降る中、家族連れの富士通の社員とこの山にやってきた。山を発つ前に一言挨拶がしたいと言うので、彼らの宿を訪ねると、案の定白髪交じりのその男は以前どこかで会ってどこかで飲んだことのある男だった。僕は、天候が不安定な山をどんどん彼女と降りてしまう。彼女は、LIFEの英語版と日本語版を持ってきて昨夜は一人で読み比べて過ごした、と言う。すると僕は、桜日さんへの甘い恋心が湧き上がると同時に、僕には連れがいて数時間後に山の上で大事な講演の予定があったことを思い出す。引き裂かれながら、言い出しかねて、山に戻るか降りるかの決心がつかないでいると、にわかに黒い雲が立ち込めてきて、これはやはり山に帰るしかない、桜日さんを落胆させるしかないのだろうと諦め、大事に取っておいた百五十二円玉をよけて小銭を出し、ケーブルカーの切符売りのおばさんから切符を手に入れた。

(2002年2月21日)