rhizome: 飛行機事故

アリ塚工場

ベランダから遠くのビルを眺めていると、空から小型機がゆっくり降りてくる。警報音を鳴らしているので、墜落するのだ。カメラを取りに部屋に戻ると「飛行機が墜落するときは自分のところに落ちてこないと思いがちですが注意が必要です」という女声のアナウンスが警報音に混じって聞こえる。悠長な飛行機だと感心する。
信じられないほど遅いスローモーションで落ちてくるのは、事故の一瞬が長く感じられる脳の内部時間の効果だ。止まったような飛行機にカメラを向けてシャッターを押すが、ダイアル設定がおかしくてシャッターが切れない。そうこうしているうちに、飛行機は向いの棟をぎりぎりかすめ、あとから自動車まで降ってくる。ようやくシャッターが切れたのは、落下物が工場の敷地のあたりで消滅したあとだった。
階下の工場に降りてみると、金属板を叩いて作ったソラマメ形の頭がころがっている。ソラマメを夢中で撮りはじめると、工員は迷惑そうだが咎めもせず自分の仕事に没頭している。工員のシルエットの隙間から狙った遠景にフォーカスが合うと、ファインダーの中に金属ソラマメとパイプで構成された巨大なアリの巣が現われる。

(2013年12月23日その2)

飛行機事故

着陸したばかりの飛行機の中。どうやら飛行機事故に会ってしまったので、外に脱出しなくてはならない。この緊急事態に、なぜこんな呑気な雰囲気なのか不思議でならない。僕は女の手を引いてすんなりと外に脱出する。僕はその女に気があるのだ。
いきなり背後で爆発音がする。女は、僕が命の恩人だと言って感謝している。こんなことでありがたがられるならいつでもどうぞ。
原っぱのバラックの二階にある自分の部屋。僕は女と炬燵に入っている。炬燵の上のパソコンに突然テレビ電話が接続する。航空会社の担当が、ご無事でなによりでした、というようなことを言っている。こっちは今それどころではない、うるさい連中だ。
しかし、いったいいつテレビ電話のプラグインを入れたのだろう。こんななめらかな動画を再生できるはずないのに。これはActiveXだろうか。

(1997年1月2日)