rhizome: 近森基

近森式便所

体育館のような展覧会場に、近森さんの作ったトイレがあるという。そういえば、ちょうど用を足したかったところだし、ちょうどいい。何人かの小学生が、話しながらトイレから出てきた。彼らは、これが作品だということを理解しただろうか。
男子用の便器が並び、その間仕切りにスピーカーが埋め込まれている。便器の中のアクリルの小箱をめがけておしっこをかけると、左右から痛快な低音に挟まれる。なるほどそういう作品ね、と、アクリルをめがけたおしっこの勢いが落ちて放物線がはずれた瞬間、目の前の壁がぐらぐらとゆらぎはじめ、驚きのあまりおしっこが止んでしまった。その壁が液晶ディスプレイで出来ていることにようやく気づくと、まんまと仮想風景にだまされて生理現象までコントロールされてしまったことが、悔しくてならない。

(1997年11月3日)