rhizome: 小林龍生

悪い機械

散乱するマットに何度も飛び込むうちに、ふと落下寸前で飛行に転じる力の入れ方を習得した。ぐいぐいと高度を稼いで、体育館の天井までたどりつく。体育館の屋根裏に住み着いて仕事をするnishinoさんらしき男と机を並べ、僕は自作のラジオを聞いている。男が作ったアルミ製の節足動物型多関節ロボットを訪ねてきた小林龍生が目ざとくみつけ、なかば冗談でリンゴを与えると、多関節ロボットは頭部の触角で幾度か対象物を探索する動作をしたあと、いっきに体ごとリンゴ内部に侵入し、果実を液化して吸い尽くしてしまう。その邪悪な光景に興奮した小林は、ロボットの腹をぐいとつかみアルミ製の頭を壁に打ち付けると、火花が飛び散り燃え始めた。

(2012年7月8日)

坂道の祝典

本当は行きたくない気分を押して式典にやって来た。しかしそこに会場はなく、朱色の橋の上、石垣の前、細く蛇行した坂道など、来賓が思い思いの場所に陣取って挨拶をしている。これはいい。うまいやり方だ。この形式なら知事の演説をパスできて都合がよい。

坂を登りきったところで、居眠りが襲ってくる。犬を連れた女が、いつの間にか添い寝をしている。犬は僕によくなついている。飼い主の女が誰で、女になついてよいものか、それがよくわからない。

長い縦の坂道に短い横路が渡されたあみだくじ状の坂道を、高速に駆け抜ける一団がある。走ること自体を目的にしたこのゲームの首謀者に、商売のじゃまだからやめろと店の主人がケータイで抗議している。しかし路地の隙間を走り抜けるぶれた人影ははっとするほど美しいので、むしろ観光資源になるはずだ。この町に集う人たちは、荷物をそこここに投げ出して走り回っている。志を同じくする人たちは、互いに信頼し合っている。ここはそういう美しい町だ。

無造作に累積した荷物の中から、自分の古びた鞄を探し出すと、中にカメラがない。よくなくすね、と小林龍生さんに言われる。「いやなくしたことはない、捨てたことがあるだけだ」と悔しまぎれに反論する。

(2010年11月7日)

氷型

われわれのバンドはメンバーが三名で、ひとりはLArcEnCielのボーカル、もうひとりは図体のでかい中山真樹らしき男、そして僕。次のイベントにむけて等身大の裸体像を作ることになり、これから型を抜く。中山真樹がまず矢面に立ち、全身氷で覆われる。それほど寒くはないが、氷と皮膚をいっきに剥がす時ぴりぴりと痛み、全身赤い網目模様になるのがつらい、と訴える。僕はバンドの真中なので、順番としては次だ。覚悟を決めているにもかかわらず、用意した氷があとわずかなので、早速製氷するか氷屋から買ってこなくてはならないということで執行猶予になる。小林龍生さんから、特に用事はないが近況を知りたくて、と電話がかかってくる。実はかれこれこういうわけで自分の型を抜くところだ。それは、自己のイメージを客体化する良いチャンスだ、とかなんとか話しながら、さてどういうポーズで型を抜くか思案をめぐらしている。座って両腕を両腿に挟もうか、思いきり立ちあがって股間を手で隠そうか、などなど。

(1999年5月31日)