rhizome: 大学

火薬庫の清流

戦時中に火薬庫だったといわれる場所はいつも大きな赤門に閉ざされているが、通用門が開いているのを初めて見る驚きのあまり、つい中に入ってしまった。これだけ広い土地を遊ばせておけるのは、管理しているのが東大だからだろうか。地面は乾いているのに、目の高さからは浅い清流が流れているように見え、ときどき鮮やかな何かが魚のように素早く逃げていく。この場所にこっそりトラックを停め続けている業者に、これはいったい何なのかと訊ねるが、体を後屈しなければ大丈夫なのだ、と質問の答になっていない。これだけの空き地の存在を周囲から気づけないのが不思議で、門から外に出てぐるりと一周切り取るように道を歩きはじめると、火薬庫をとりまく家々は暗い飲食店ばかりで、どこもあまり客が入っていない。テーブルも椅子も置かない餡蜜屋に入り、店の奥に行こうとするが拒まれる。流しで手を洗うふりをして勝手口から裏に出ると、思った通りあの空き地に面していて、どの店も水のような幻覚のようなものを筒で吸い出している。ためしに体を思い切り後ろに反らすと、ふっと体が浮いて、このあたり一帯の地図が俯瞰できた。

(2013年8月18日)

ロケットランチ

東洋大学の学食はシステムが複雑すぎる。トレイに料理を載せ、お金を払うまでに何度も躓いてしまう。馴れている稲垣さんはとっくに食事を済ませ、休憩所で昼寝をしている。頭上を日立製作所の試験線路が走るベンチに陣取り、食事を始めると、ロケットエンジンで走る試作車両が豪速で走り抜け、そのたびに液体燃料タンクに付着した氷が解けて昼食トレイの上に冷たい水滴を落としていく。

(2012年12月22日)