rhizome: 墜落

アトムの末路

鉄腕アトムの物語の中で、四角く繰り貫かれた土のトンネルをアトムと歩いている。アトムはさっき、大きな球体を背負ってふらふら着地しながら、最近飛ぶのが難しくなったと言っていた。トンネルの脇腹に、繰り貫かれた四角い穴があり、覗くと深い崖が切りこんでいる。アトムはふっと踏み出すが、飛べないことに気づかぬまま崖の底に落ちていく。僕は茫然と彼を目で追いながら、この物語の結末は脚本としておかしくないか、と思っている。

(2018年4月19日)

アリ塚工場

ベランダから遠くのビルを眺めていると、空から小型機がゆっくり降りてくる。警報音を鳴らしているので、墜落するのだ。カメラを取りに部屋に戻ると「飛行機が墜落するときは自分のところに落ちてこないと思いがちですが注意が必要です」という女声のアナウンスが警報音に混じって聞こえる。悠長な飛行機だと感心する。
信じられないほど遅いスローモーションで落ちてくるのは、事故の一瞬が長く感じられる脳の内部時間の効果だ。止まったような飛行機にカメラを向けてシャッターを押すが、ダイアル設定がおかしくてシャッターが切れない。そうこうしているうちに、飛行機は向いの棟をぎりぎりかすめ、あとから自動車まで降ってくる。ようやくシャッターが切れたのは、落下物が工場の敷地のあたりで消滅したあとだった。
階下の工場に降りてみると、金属板を叩いて作ったソラマメ形の頭がころがっている。ソラマメを夢中で撮りはじめると、工員は迷惑そうだが咎めもせず自分の仕事に没頭している。工員のシルエットの隙間から狙った遠景にフォーカスが合うと、ファインダーの中に金属ソラマメとパイプで構成された巨大なアリの巣が現われる。

(2013年12月23日その2)