rhizome: 交響曲

元歌テスト

壁にかかった暗い額縁を覗きこむと自分の顔が映って見え、その位置を保ったままスキャットを歌うとほかのミュージシャンとつながる仕組み。ブラームスの交響曲4番第2楽章の構造を移し換えた歌を歌うと、坂本龍一がこのスタイルは初めて聞いたと言う。これならどこに出しても元がブラームスであることを隠し通せるだろう。

(2018年3月27日)

人間でないもののための音楽

ベートーヴェン交響曲7番ピアノ独奏版を弾く永井さんを指揮しようと棒を振り上げると天窓越しに高いクレーンの先端から人が落下するのが見え、遠くでどすんと音がする。ここのひとびとは一様に顔まで覆うスウェットスーツを着て、人間であることを隠しながら暮らしている。人間の子供たちは、点在する砂場ごとに裸で埋まって身を潜めている。しかし、スーツの中を満たしている人間でないひとびとのための音楽は、人間にはまったく音楽として聞こえない。
高層マンションは大規模修繕のため、四階から上の階が分解撤去されている。天井を這う四階のパイプ群が軍艦のように空に向かって露出していて、複雑な構造が白一色に塗られたところだ。ハッチを開けて部屋のひとつに下りていくと岩間さんがいる。普通に暮らしているんだね、というと、僕の言語が理解できないという顔をする。

(2017年7月20日)