rhizome: プラスチック

大正時代の恋文

部屋にあった持ち物が、公園に晒されている。見慣れた書架に値札がついている。なにかの手順のような抽象的な概念も、滑らかな黄色いプラスチックの塊で売られている。所有物を売るときにいつも陥るあの逆説的な思い、この机が一万円なら自分で買うかもしれない、というあの後悔が湧いてくる。
ポジフィルムを透かすライトボックスに目をつけた客を、それはもう使いみちがないから、と追い払う。古い木箱を開けて整理を始めた野知さんは、書類に挟まって死んだ虫とそれに群がる赤い蟻を払いながら、大正時代の女が書いた熱烈な恋文の束を読みふけっている。それぞれの返信がどうしても読みたいが、返信はこの女の骨董市まで行かないと読めない、と野知さんが言う。

(2015年3月31日)

料亭の地下工場

料亭の座敷で、友人は店の人の目を盗んでは壁を駆け上がり、天井を走りきる途中で落ちる遊びを繰り返している。落ちるたびに、友人は笑いながら眠ってしまう。
料亭の地下は工場のような広間で、コの字に並んだ卓の上に浴衣の少女たちが並び、なにか食材を踏んでいる。うちの料理の風味はここで作られているのだと女将が言う。この広間で食事ができるのは特別な客なのだそうだ。便所にいくと、目鼻のない石の頭の老人たちが待ち構えている。ここでは手を使わずに、彼らに任せて小便をするしきたりになっている。自分が特別な客でないことがばれないように、馴染みを装って長い小便をするが、石頭がペニスを持ち変えるたびに声が裏返ってしまう。

細い縦杭を伝って外に出ると、怪しいプラスチック職人たちが作業をしている。僕は保安官に彼らのことを告発する。保安官は白いパイプ状のプラスチックをチェックして、問題ないと言う。さらに透明な粘液を床に撒いて火をつけるが、この燃え方も正常だと言う。いやこれは二液混合なのだ、混ぜないと真相はわからないのだ。しかし、頭の悪い保安官はその意味を理解できない。

(2013年12月23日その1)