rhizome: あけび

黒い水棲あけび

山岳地帯を奥へ分け入っていくと、突然その村は現れた。岩を切り出した広い溝に、木の皮で作った幌がかけてあり、幌の下に「何か」がたくさん保管されている。あやうく幌に足をかけ、中の「何か」を踏みつぶしそうになると、「何か」はそこで生活しているたくさんの人の頭であることがわかる。こんな暮らし方もあるのか、と声を漏らすと、この村には雨ざらしの岩の上で手足を縛られて暮らしている女たちもいる、と幌の中の誰かが説明を加える。

山を降り、いつのまにか急流に囲まれた畳岩の上に取り残されている。まるで雨ざらしの女たちのように、身動きがとれない。カウボーイ風の父親が畳岩に這いあがってきて「さてわれわれは何を食って生き延びようか」と言う。父は川の中に手を差し入れ、そこに生えているあけびのような実をもぎ取った。
「これは食えるだろうか」と父。さあ、どうだろうと答える前に、父はすでに美味そうに頬ばっている。
ふと、あけびと同じような形をした黒い動物が、すばやい動きで川の中から近づいてきて股間に貼りつく。それは払いのけても数十秒もするとまたやってきて、同じように貼りつく。父の股間にも、同じ種類の黒あけびが貼りついているが、父は「俺は放っておく」と、まるですっかりおなじみの事態であるように、相変わらずあけびを食い続けている。そんなものかと思って自分も放っておくと、睾丸の袋までしっかり取りついたそれは、じわじわと養分を吸い出しはじめているようだ。

(2000年2月16日)