rhizome: ポリフォニー

同期しないポリフォニー

Kが来客と話しているのを半ば目覚めた耳で聞いている。誰かが優しい声で「~さん~さん」と寝床の僕に声をかけるが、名前の部分が僕ではない。息子が妙な音楽を聞いている。声部ごとに異なる粘り気を引きずっているので、それが「音楽の捧げもの」だとわかるまでに時間がかかった。それはなにかと尋ねると、3歳に戻った息子は押入れの中に分け入り、ここにあったテープだと言う。昔の押入れから戻ってきた息子は、さらに0歳児まで逆戻りしていて、布にくるまれた顔に顔を近づけると涙が込み上げてくる。

(2013年1月12日)

横臥合奏

深い森の中の建物。山小屋の夜のように、たくさんの人がひしめいて眠っている。僕もその中にいる。柳沼麻木さんが巡回してきて、いきなり顔をめがけて、小麦粉のようなものを投げつけてくる。僕は抵抗しようとするが、体が動かない。これで、僕は体のコントロールが自由でないことを了解する。これは、身体障害の体験ワークショップなのだ。
僕らは、このワークショップのために作った装置を実験しようとしているのだ。横たわっている人々は、それぞれの障害に応じて、ひとつずつスイッチをもっている。部屋にはミニマルミュージック風の音が流れている。スイッチを押すと、音楽とぴったり同期して、あらかじめプログラムされたパッセージが流れる。スイッチをずっと押し続けることはできない。一定時間内に押せる頻度が決まっているからだ。
横たわった人々は、ほとんど体を動かすこともなく、静かにスイッチを押すタイミングを計っている。音楽がだんだん重層的になってくる。僕は、心臓がドキドキするのを感じる。

(1997年3月10日)