有機物ネットワーク

東京の地下鉄網が東の果てで途絶える駅を出ると、景色があちこち錆びている。使っていない工場の壁に、操車場の電車の窓にあたった西陽が、ゆがんだ四角い反射を落としている。この奇妙な一瞬を写真に撮ろうとRにカメラを借りるが、電池あるいはメモリに問題があるため画像が保存できません、と表示される。
空に突き出す何本もの塔の中、町はずれにあるひときわ巨大な煙突を目指して歩いていく。しかし、どんな光景に出合っても写真が撮れない。せっかくだからカメラを持って次に来るときのために歩ききらないでおこうよ、と言うのを聞いていないのか彼女はどんどん地下通路に潜り、突き出した土管から顔を出すと、広大な更地をブルドーザーが這っている。
巨大な煙突は、地域の有機物を人間の死体も含めてすべて空中に返し、世界中の空気から有機物を回収するネットワークで、そのための工事をしているのだと言う。鉄パイプ製の車に乗ると、地域の王子らしき裸の子供が、煙突の熱は使い放題だけれど絞れない=制御できない、と言う。しかし余った熱は、車のフレームであるパイプにつなぐと車全体に行き渡るのだ、と言う。

(2012年7月26日)