クラウドテレビ

H氏は小学館ビルの細長い洞窟上のフロアで、泥絵を描いている。H氏(ひぐち、ひがき、ひうらなど「ひ」のつく名だ)は僕のことを知っているし僕もH氏のことを知っているが、これが初対面だ。H氏の掌には少なくとも5色の土があり、それを巧みに切り替えて壁に泥を塗っている。中村さんがH氏に、テレビ神奈川が見たいと要求する。小学館のフロアの端にはラウンジがあり、そこのテレビは屋上のUHFアンテナにつながっているから、きっと過去の番組が映るはずだとH氏が言う。いやそんなことはないだろうと僕が反論すると、H氏は空にまだキャッシュが残っていると言う。

(2016年2月8日)