「連画」は、コンピュータ・グラフィックスによる絵画作品を通信によって相手に送り、そのデータを加工修正することによって、新しい絵画作品を次々生み出していく手法だが、他の人の創作物を直接的に利用し合いながら、独創的な表現を追求する新しい創作システムとして注目されてきた。「連画」は、単に芸術的な創作の分野にとどまらず、マルチメディア時代の知的共有や、協調作業の新しいスタイルを展開する可能性がある。

 そして今回設計されたのが、連画的創作を支援するネットワークシステム「The WALL」である。このシステムであるThe WALLは、円筒状の壁を隠喩(メタファー)とした、2Dコンピュータ・グラフィックスの共同創作支援システムである。クライアント・サーバ型で、複数のユーザがネットワークを通して、The WALLのキャンバスを共有することができる。
 



 


 この円筒状の壁の任意の領域に対して、ユーザは、WALLペインタを利用して画像を上書きしてゆくことができる。まず描画の際には、他のユーザが侵入できないようにロックをかける必要があり、そのロックされた領域を「インターロック」と呼ぶ。

  インターロックされた領域に対して、ユーザは、WALLペインタの描画ツールを使用しながら好きな画像を描くことができる。描きかけた状態から放棄することなどは自由である。

 描画が完成した画像がサーバに対して送信されると、サーバはその画像を、データベースのレイヤー構造を保持したまま保存する。この結果、多くのユーザが繰り返し上書きをくりかえしてゆくと、バームクーヘン状の多層構造をした画像データベースが生成される。

 この個々のユーザによって描画されたレイヤー片を、The WALLでは「Bark」とよぶ。WALLはBarkの連なりによってしだいに発達してゆくのである。
 
 



 




 なぜこのようなBarkという方式が採用されているのだろうか?
連画作品は、連画的に連結した組作品である。連画的連結とは、3つの作品が、A->B->C、という順序で制作された場合、

 ・BがAの明示的な影響下にあり、Bの成立にAが不可欠であること
 ・CとBのあいだにも同様の関係があてはまること

という関係性をいう。したがって、WallとBarkの関係、および堆積してゆくBarkとBarkの関係は、その連画的連結を円筒状の壁のうえに現実化したものといえる。
 



 




 時間を経てその数を増してゆくBarkの集合によって、Wallの壁は、しだいに多層的な発達をとげる。したがって壁は、ひとときとして同じ姿をとどめることはない。 

 そこでは連画のもつ時間的関係、個人と全体の関係、絵と絵の関係、などの意味が一目瞭然であり、連画的方法とはなにか?という問いと答えが、ユーザの前に開示されるであろう。